エア と 3000のき

 それまで、ざわついていた むらのひとたちも、
 その しゅんかんだけは、いっせいに しずまりかえるのでした。

 ここは、むらの そばにある おおきな もり。

 じめんを ゆらすような おとをたてて、
 おおきな きが また ひとつ きりたおされていきました。

 むらの そんちょうが、
 その きに あかいペンキで すうじを かきこみます。

 2999。

 きこりが きりたおした きのかずです。
 そして、たくさんのひとに あたたかな ふゆと、
 すてきな えがおを とどけた かずでした。

 いつものように、なにもいわずに こやへと もどる きこり。
 
 その うしろすがたを、
 エアは とても ほこらしげに みつめているのでした。


 つぎのひ。

 エアは、あさはやくに きこりのすむ こやを たずねました。

 きこりは、あさのコーヒーを いれているところ。
 エアに きづいた きこりは、たなから もうひとつ カップをとりだします。

 しずかな じかんが ながれました。

 まどから そそがれる かぜだけが、いきもので あるかのようです。

 はしらに かけられた とけいが、
 しごとの じかんを つげました。

 いすから たちあがり、おのを てにする きこり。

 そとにでると、むらじゅうの ひとたちが あつまっているのでした。

 
 カーン、カーンというおとが、
 むらの むこうがわまで ひびいています。

 それは、おおきな きの さいごの ことばのようでした。

 もりの きぎのあいだに、
 あふれるように むらのひとたちが しずかに たっています。

 てをあわせ、そらに いのっている ひともいました。

 カーン、カーン。

 とても かたい きのようです。

 カーン、カーン。

 その おとと ともに、きこりの かおから あせが とびだします。

 そのようすを、
 ひとりの しょうねんが あこがれるように みつめていました。

 ひが くれてきました。

 こんなに ながいあいだ おのを ふりつづけることは、
 きこりにとっても はじめてのことでした。

 それでも、けっして やすむことなく きこりは おのを ふりつづけました。

 そのすがたは、たくさんのひとに ゆうきを あたえました。
 それが、むらのひとたちの きぼうに なりました。

 もう きょうは この きが たおれることはない。

 そう だれもが おもったときでした。

 おおきな。
 おおきな おとが もりじゅうに ひびきました。

 ついに、
 きが きりたおされたのです。

 そんちょうが、ゆっくりと あかいペンキを とりだしました。

 3000。

 その しゅんかん、むらのひとたちは いっせいに こえをあげました。
 かんどうの こえを あげたのです。

 それでも、
 きこりは いつものように こやへと もどっていきました。

 ふと、きがつくと きこりの あしもとに、
 さっきの しょうねんが まとわりついていました。

 そして、なにかを きこりにむかって たずねます。

 それまで、むひょうじょうだった きこりも、
 そのことばに にっこりと ほほえみました。

 「おおきなことを するんじゃないよ。
  ちいさなことの つみかさねが、やがて、おおきなことになるんだ」

 きこりは、てにもった おのを しょうねんに てわたしました。

 1。

 そこには、きえそうな あかいペンキで、そう かかれていました。

 いちばんぼしが ともりました。

 いつものように、なにもいわずに こやへと もどる きこり。
 
 その うしろすがたを、
 エアは とても ほこらしげに みつめているのでした。

執筆日:2008年7月31日 00:00 作:まみや

エア と はなのたね

 いま、ひとりの おんなのひとが、ながい あいだ くらしていた いえを でました。
 エアは、そっと どうかを さしだしますが、
 そんなものは、おんなのひとにとって なんの なぐさめにも ならないのでした。

 つぎのひのこと。

 エアは、どうしても あの おんなのひとが きになって、
 まちじゅうを さがしまわりました。

 おんなのひとは、まちはずれの のはらで よこになっていました。
 わずかに のこった どうかと、さめた スープが わきにおかれています。

 つめたい かぜが ふきました。

 エアに きがついた おんなのひとは、
 かなしく、そして やさしいめをして、ふっと ほほえみました。

 そっと、ゆびさした そのさきには、いちりんの はなが さいていました。
 まっしろい はなでした。

 おんなのひとは、はなやさんを していました。
 けれど、おもうように はなはうれずに、
 いえを でていかなくは ならなくなったのです。

 エアは、いそいで まちまで もどると、おおきな ふくろ いっぱいに、
 はなの たねを かって もどってきました。

 その たねを うけとった おんなのひと。
 ひとつぶ ひとつぶ、なにもない のはらに、たねを うえました。

 「かなしいことも あるよ。でも、すべてのことに いみは あるんだ」

 また、つめたい かぜが ふきました。
 けれど、それは さっきまでの かぜとは ちがっていました。

 いつか、この のはらは、かぞえきれないほどの はなが さきみだれることでしょう。

執筆日:2008年7月24日 00:00 作:まみや

エア と あらしのとう

 まっくろになった くもりぞらをみあげて、
 いそいで かいものを おわらせるように、
 エアは しょうてんがいを はしりだしました。

 ここは、たかい たかい とうのある まち。
 きのうまで、はれたひが つづいたのに、
 きょうは たいようも みえません。

 あしたは、きっと あめがふるんだろうな。

 てのひらを そらにむけて、
 エアは しずかに おもうのでした。

 つぎのひ。

 エアは、いえのなかで のんびりと
 ほんをよんでいました。

 そとは おおあらし。

 だれひとり、そとにでているひとは いません。

 どのおみせも、いりぐちをしめて、
 あめが はいってこないように しています。

 ぱたん、と ほんを とじる、エア。
 みあげた まどのさきに、おおきな とうが みえました。

 ほのおの きえた とう。
 
 1ねんまえまでは、おおきな ほのおが ともっていたそうです。

 それが、おおきな じしんが おきて、
 かたむいてしまった とうに、
 ふたたび ひが ともることは ありませんでした。

 だれかの こえがして、
 エアは しせんを となりのいえに むけました。

 そこには、ちいさな おとこのこと、
 おおごえを あげている おんなのひとが みえました。

 あらしのなか はしりだす、おとこのこ。
 それを ひっしで おいかける、おんなのひと。

 それに きづいたのか、
 そこかしこの いえから、たくさんのひとが とびだしてきます。

 エアも、たちあがると、
 かさを てにして そとにとびだすのでした。

 たくさんのひとが あつまっています。
 そこは、あの とうの いりぐちでした。

 だれも はいれないように していた いりぐちは、
 かぎと とびらが こわされています。

 あの おとこのこの しわざでした。

 うえのほうから こえがします。
 おとこのこの こえでした。

 こえは、どんどん うえに あがっていきます。

 まちのひとたちは、
 ふあんそうに とうを みあげるばかり。

 まちの きまりで、
 だれも とうに のぼることは ゆるされないのです。

 エアの うしろのほうで、
 こえが しました。

 そこには、あの おおごえを あげていた おんなのひとが、
 おとこのひとに うでを おさえられているのが みえました。

 おとこのこを、とめにいこうと しているようです。

 まちのひとが、
 しずかに つぶやきました。

 あの おとこのこは、
 じしんのせいで りょうしんを なくしたこと。

 じぶんだけ いきているわけにはいかない、と
 なんども じぶんを きずつけたこと。

 そして、

 あの おんなのひとの ことばに、
 いきることを きめたこと。

 せかいじゅうから、
 じしんのことを きいた ひとびとが、
 まちのひとたちを たすけてくれたこと。

 エアは、はしりだしました。
 とうに むかって、はしりだしました。

 そのときです。

 だれかの さけびごえが きこえました。

 とうを みあげると、
 そこには はしごに しがみついている、
 おとこのこの すがたが みえました。

 とうの いちばんうえ。
 そこに、ひを ともす はしらが あります。

 そこにいくには、
 かいだんではなく、はしごを のぼらないと いけません。

 あらしが、ようしゃなく
 おとこのこを おそいます。

 それでも、ひとつ ひとつ、
 はしごを のぼっていく おとこのこ。

 まちのひとが しんぱいするなか、
 ぶじ、はしらまで たどりつきます。

 それは はじめ、ちいさな ほのお でした。
 そして、ゆっくりと おおきくなっていきます。

 あっというまに、
 ほのおは、おおきく おおきく すがたを かえていきます。

 おとこのこが、したを みおろしています。

 どうして、とうに ほのおなんか。

 おんなのひとが なきながら、さけびました。

 「せかいじゅうに、ありがとうを つたえたかった。
  ぼくには これしか できなかったんだ!」

 おとこのこの こえが、
 まちじゅうに ひびきました。

 エアは、しずかに ほほえみます。

 ほのおに てらされるように、
 そらが その いろを かえました。

 すこしずつ、はれわたる、そら。

 きっと、この ほのおは、
 とおくのまちからも みえることでしょう。

 とうを おりてきた おとこのこを、
 おんなのひとは やさしく だきしめるのでした。

執筆日:2008年7月17日 00:00 作:まみや

エア と おうさまの かきごおり

 せかいじゅうの おうさまたちが
 ちいさく てをふって あいさつするのを、
 エアは うれしそうに みつめているのでした。

 ここは、せかいの まんなかの おおきな まち。

 おうさまたちの かいぎが、
 きょうから はじまったのです。

 たくさんの もんだいを かかえた せかい。
 それは いまに はじまった ことでは ありません。

 それでも、

 きのうより、きょうを。
 きょうより、あしたを すこしでも すてきにしたい。

 そのおもいは、
 どの おうさまも いっしょのよう。

 あついひざしが、
 まちじゅうを つつみこんでいるのでした。


 まちのなかは、
 せかいで いちばんの ひとごみでした。

 エアは、このまちの おみやげひんを ながめながら、
 おしろへと むかいます。

 おしろの まえは、
 たくさんの ひとだかり。

 へいしたちが、
 ひっしに むらびとに なにかを いっています。

 ふと、わきのくさむらを みつめると、
 だれかが すわりこんでいるのが みえました。

 エアは、そっと そのひとに ちかづくと、
 ポン、と かたを たたきます。

 おどろいて とびあがる、そのひと。
 まだ わかい コックさんでした。

  おうさまたちに デザートを だせって。
  もう、なにを だしたらいいのか わからなくて。

 コックさんのことばに、
 エアも いっしょになって まゆを ひそめます。

 もうすぐ ひがくれて しまいます。

 タイムリミットは、どんどん ちかづいているのでした。


 そのひの よるのこと。

 おうさまたちは、
 はこばれた ゆうしょくに てもつけずに、
 はなしあいを つづけました。

  こんな りょうりは、わたしの くに にもある。
  いまは しょくじより、はなしあいが さきだ。

 どの おうさまたちも、
 めをうばわれるような ごちそうに みむきもしません。

 そのようすを ちゅうぼうから のぞいていた、コックたち。
 がっくりと かたを おとします。

 とつぜん、おおきな こえがきこえました。

 ある くにの おうさまが、どなりごえを あげています。
 どうやら、ほかの くにの おうさまの いったことが、
 かんに さわったのでしょう。

 それを くちびに、
 どの おうさまも、おおごえで どなりはじめました。

 おなかがすいて、
 イライラしていたのかもしれません。

 ごちそうが ひっくりかえされました。
 そこかしこで、しょっきの われる おとがします。

 おしろの へいしたちも、
 とめられないほどの さわぎになりました。

 そのときです。

 だれかが、すずしいかおで
 テーブルまで やってきました。

 あの わかいコックでした。
 
 その うしろから、エアも ついてきます。
 コックのふくをきて、ほんとうに りょうりにん みたいです。

 わかいコックは、
 おうさまたちのせきに、
 つぎつぎと デザートを おいていきます。

 それは、どこにでもあるような かきごおり。

 とても、おうさまに おだしするような ものではありません。

 おこった ある おうさまが、
 わかいコックのかたを つかみます。

  これは、ある とくべつな こおりを つかった
  かきごおりです。

 コックのことばに、
 かいじょうは しずまりかえりました。

  この こおりは、わたしの ふるさとに ある こおり。
  ...もうすぐ なくなってしまう こおりです。

 コックのふるさとは、
 きたにある ゆきぐにでした。

 せかいじゅうが あたためられたせいで、
 その ゆきぐににある こおりが とけだしたのです。

  こどものころ、ははおやが
  この かきごおりを つくってくれました。

 コックは、テーブルのうえの かきごおりを てにとりました。

  その あじが わすれられなくて、
  わたしは りょうりにんに なろうと きめたのです。

 エアが しずかに ほほえみます。

  わたしの ほかにも、
  そんな ゆめを いだいた なかまは おおぜい います。

 コックは しずかに うつむきました。

  でも、その ゆめを、
  いまの こどもたちが みることは ありません。

 おうさまたちも うつむいて しまいました。

  どうか、ゆめを とぎれさせないで ください。
  たいせつな この かきごおりを なくさないでください。

 コックは、それだけいうと、
 しずかに ちゅうぼうへと もどっていきました。

 ひとりの おうさまが かきごおりを すくって たべました。
 ほかの おうさまも かきごおりを すくって たべました。

 それは、なつかしい あじ。
 わすれていた たいせつな あじでした。

 おうさまたちは、
 かきごおりを たべながら せきにつきます。

 そして、コックたちに おわびをいって、
 もういちど りょうりを つくってくれるように おねがいしました。
 
 「せかいを よくしたいのは、みんな いっしょなんだよ」

 はなしあいは つづくでしょう。
 たのしい ゆうしょくの あとに。

 つきあかりが、かいじょうを てらしました。

 どこからか、ちきゅうの やさしいこえが、
 きこえてくるような きがするのでした。

執筆日:2008年7月10日 00:00 作:まみや

エア と はいいろのアジサイ

 かさにあたる あめのおとが、
 ちいさな おはなばたけで ひとつ ふえました。

 

 しずかに ほほえむ エア。
 てには、くろい かさを もっています。

 

 それを うけとった おじいさん。
 とても やさしいめをした おじいさんでした。

 

 エアは、おじいさんの あしもとに さいた はなを、
 ひとさしゆびで なでました。

 

 おじいさんが、しずかに はなしはじめます。

 

 それは、アジサイとネコの おはなしでした。


 

 ある あめのふるひのこと。

 

 おじいさんは、ひとりで おさけを のんでいました。
 まだ、ひるまだというのに まっかな かおをしています。

 

 ふらふらに なりながら、
 まちはずれの いえに かえる おじいさん。

 

 かさも ささずに、
 ずぶぬれになって あるいていきます。

 

 ...おばあさんが、なくなったのでした。

 

 その かなしみから、
 あんなに えがおだった おじいさんは、
 おさけに おぼれるようになって しまったのです。

 

 ふと、あしもとに めをやると、
 ちいさな こねこが みちばたで たおれています。

 

 おじいさんは、はなで わらうと、
 こねこを むしするように、みちのむこうへと いってしまいます。

 

 ためいきを、ひとつ。
 おもいだすのは、おばあさんの ことば。

 

  わたしは、ネコが だいすきなのよ。
  でも、アレルギーでね。

 

 ふりかえる、おじいさん。
 こねこと おじいさんの せいかつの はじまりでした。

 


 こねこは、おじいさんの てあてのおかげで、
 すぐに げんきになりました。

 

 はれたひには、そとを かけまわります。
 

 はいいろの こねこ。
 めずらしい こねこでした。

 

 おじいさんは、こねこと いっしょに 
 さんぽにいくのが だいすきになりました。

 

 もう、さみしくなんか ありません。
 おさけに おぼれることも ありません。

 

 ほんとうに、たのしい まいにちが、つづくと おもっていました。


 

 あるひのこと。

 

 いつものように、さんぽに でかけようと、
 こねこの なまえを よぶ、おじいさん。

 

 しかし、こねこは、まどのそとを みつめては、
 さみしそうに ちいさく ないています。

 

 おじいさんは、
 こねこを だきあげました。

 

 そして、そとへと でかけようとします。

 

 とつぜん あばれだす、こねこ。
 おじいさんを ひっかいて、いえの おくへと
 にげていって しまいました。

 

 そとは、あめ。

 

 こねこは、あめが だいきらいでした。

 

 おかあさんに すてられて。
 あんなに くるしい おもいをした、あめ。

 

 その きおくが、いつまでも こねこに のこっているのです。

 

 おじいさんは、
 こねこが ふびんで なりません。

 

 どうにか、あめのひを すきになって もらえないだろうか?

 

 そこで、おじいさんは いいことを おもいつきました。

 

 まどからみえる けしきを、
 アジサイのはなで いっぱいにしよう。

 

 さっそく、おじいさんは、
 アジサイを はなやさんから かってきます。

 

 そして、まいにち せわをして、
 こねこが いえから でてくるのを まちつづけました。

 

 あおい アジサイが さきました。
 こねこは まだ でてきません。

 

 むらさきの アジサイが さきました。
 こねこは やっぱり でてきません。

 

 ももいろの アジサイが さいたころ。
 おじいさんは つかれて、たおれてしまいました。

 

 こねこは いそいで、そとに かけだします。

 

 げんきになった おじいさんと、
 あめが すきになった こねこ。

 

 しあわせな じかんは、
 こねこが てんごくにいくまで つづくのでした。

 


 かさにあたる あめのおとが、
 ちいさな おはなばたけに たくさん あつまりました。

 

 いまでは、
 せかいじゅうから おじいさんの アジサイをみに、
 たくさんのひとが やってくるのでした。

 

 こねこを なくした おじいさん。
 それでも、いまは さみしく ありません。

 

 「あめも わるくないわ。きれいな アジサイが みられるんだから」

 

 エアが しずかに つぶやきました。

 

 あおい アジサイ。
 むらさきの アジサイ。
 ももいろの アジサイ。

 

 そして、

 

 はいいろの アジサイが、
 あめのなか せいいっぱい かがやいているのでした。

 

執筆日:2008年7月 3日 00:00 作:まみや
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