あめが あがったあとの さわやかな かぜに、
エアは その ながいかみを なびかせました。
ここは、そうげんが ひろがる、ぼくじょう。
とおくの きゅうしゃから、
げんきな おんなのこの こえが きこえてきます。
エアは、りょうて いっぱいに かぜを かんじて、
きゅうしゃに むかって はしりだすのでした。
きゅうしゃは、とても ふるい たてものでした。
なかでは、たくさんの ニワトリが
エサを ついばんでいます。
サッと、エサを ニワトリに すくってあげる、エア。
さっきの おんなのこが、えがおで こえを かけてくれました。
この ぼくじょうの むすめさん。
まいあさ、はやおきをして ニワトリの たまごを とるのが、
おしごとでした。
おおきな かごを せおった おんなのこ。
これから、いちばへと タマゴを うりにいくようです。
エアは、おんなのこの おてつだいを することに きめたのでした。
そのひの よるのこと。
エアは、まどから よぞらを みあげていました。
ほしが ふしぎに かがやいて、
おんなのこの かおのようが みえました。
さみしそうな、おんなのこの かお。
いちばで、タマゴは 1つも うれなかったのです。
ニワトリを そだてるための エサが たかくなったせいで、
タマゴの ねだんも あげなくては ならなくなったのでした。
なにか。
なにか、できないだろうか。
エアは、しばらく よぞらを みつめているのでした。
つぎのひの あさ。
おんなのこは、ねむいめを こすって、
ニワトリに エサを あげに、きゅうしゃへと やってきました。
とびらを あけようと、
とってに てをかけると、かぎが あいています。
ふしぎにおもいながら、きゅうしゃに はいると、
おんなのこは、おもわず こえを あげました。
ニワトリが 1わも いなかったのです。
いそいで、おとうさんを さがす、おんなのこ。
すると、そうげんの ほうに、だれかの すがたが みえました。
エアです。
みると、エアの まわりで たくさんの ニワトリが、
うれしそうに とびまわっていました。
おんなのこが、おこったかおで ちかづくと、
エアは わらいながら あやまりました。
そして、てにもった
とても きれいな みずが はいった バケツを、
おんなのこに てわたしました。
それは、とおくの かわの みず。
すいどうの みずより、はるかに きれいな みずです。
ニワトリたちの ために。
タマゴが たかくても かってもらえるように。
エアが できることを、せいいっぱい やったのです。
ニワトリに しぜんの かぜを かんじてもらうのも。
おいしい みずを おなかいっぱい、のんでもらうのも。
そして、
いっしょに あそんで、あいじょうを そそぐことも。
みんな、みんな、
おんなのこの えがおのために、エアが だした こたえでした。
おんなのこのめから、なみだが こぼれおちました。
それを なぐさめるように、
ニワトリたちが あつまってきます。
なにかが、くさむらに ころがりました。
それは、みたこともない きんいろの タマゴ。
ゆうがたには、
この ぼくじょうに、
しあわせを はこぶ タマゴです。
「まけないで。あなたの きもちは、きっと つたわるから」
かぜが ふきました。
とおくのほうから、
おとうさんの よぶこえが きこえてくるのでした。
とおくの まちが、
また、ドラゴンのひに やかれてしまったことを、
エアは、はいたつされた しんぶんで しりました。
ここは、うみぞいの ちいさな まち。
こころが いたみます。
どうして、ドラゴンは こんなに ひどいことを、
するのだろう。
エアのほほを、なみだが つたうのでした。
つぎのひ。
エアは、まちかどに たっていました。
とおくのまちのひとへ、
なにか おくりものを しようと
かんがえたのです。
けれど、エア ひとりで できることは
かぎられています。
そこで、まちのひとたちに、
きょうりょくを たのむことに したのでした。
たくさんの ひとたちが、
まちの おおどおりを あるいていきます。
しかし、エアのことばに
みみを かたむけてくれるひとは
だれひとり いませんでした。
そんなこと、わたしたちには かんけいない。
このまちが、ドラゴンに おそわれるわけないよ。
だれもが、じぶんのことだけしか かんがえていません。
そして、この へいわは えいえんのものだと
おもっているのです。
エアは、だんだん かなしくなってきました。
ひとの つめたさ。
ききかんの なさ。
そして、
じぶんの むりょくさに。
オレンジいろに そまる そらが、
エアの せなかを やさしく つつみこむのでした。
そのひのよる。
それは、おこりました。
にげまどう、まちの ひとたち。
つぎつぎに、やかれていく まちなみ。
ドラゴンが やってきたのです。
だれひとり、ドラゴンがくるなんて
おもってもいません。
どこへ にげたらいいのかも わからずに、
たくさんの ひとが パニックに なっています。
まちを やきはらった ドラゴン。
こんどは、にんげんを にらみつけます。
ひとりの おとこのこが、
つまずいて ころびました。
ドラゴンの あしもと。
ははおやの さけびごえと、
ドラゴンの うなりごえが ひびきます。
ゆっくりと、ふりおろされる、
ドラゴンの おおきな あし。
じめんが おおきく ゆれました。
あしを あげた ドラゴン。
しかし、そこには おとこのこの すがたはありません。
エアが、かんいっぱつ おとこのこを すくいだしたのです。
ドラゴンの するどい まなざしが、
エアを にらみつけます。
その くちから ふきだす ほのお。
もう、たすからない!
そう、おもったときでした。
きゅうに、あたりが ひかりに つつまれたかと おもうと、
ドラゴンが くるしそうに あばれだします。
ひかり。
まばゆい ひかりが、ドラゴンを つつみこみました。
うなりごえを あげて、にげだす ドラゴン。
まちは すくわれました。
なにが おこったのか。
エアにも わかりませんでした。
ひかりが よぞらへと もどっていきます。
......。
エアのみみもとに こえが きこえました。
それは、ほしの こえ。
とおくのまちで いのちを おとした ひとたちが、
ほしになったのです。
「ドラゴンは いつくるか わからないんだから」
まちに しずけさが もどりました。
まちの ひとたちも、
エアの ことばに なにかを かんじたようです。
こんど ドラゴンが やってくるのは、
あなたの まちかもしれません。
そこかしこから きこえてくる、
きかいの おと。
はりのやまのように ならんだ、
えんとつからは、
たくさんの けむりが そらへと むかいます。
ここは、おおきな きかいじかけの まち。
ロボットと にんげんが
なかよく くらす すがたに、
エアは、きもちの たかぶりを おさえられないのでした。
みちを あるいていると、
おいしそうな においが してきました。
その においに さそわれるように、
エアは ちいさな レストランに はいっていきます。
ガシャン
ガシャン
ガガ...ガ...チン!
ロボットの コックさんが、
ごちそうを つくっています。
エアも、さっそく
ウェイトレスの ロボットに、
ハンバーグを ちゅうもんしました。
あたりを みわたします。
たくさんの ロボットが、
レストランじゅうを かけまわっています。
ちゅうぼうの おくのほうで、
おとこのひとが、ロボットの てんけんをしています。
このレストランでも、
みんな なかよく しごとをしているんだ。
エアの きもちが、とても あたたかくなったのは、
はこばれてきた、ハンバーグだけの せいでは
ありませんでした。
おみせを でた、エア。
あしを けがした ひとを、
たすけるロボットに あいさつをします。
むこうからは、ロボットが えんそうする
ピアノの おと と、
すてきな おんなのひとの うたごえが
きこえてきました。
ほんとうに。
ほんとうに、すてきな まちだわ。
エアは、こころから よろこびを かんじました。
そのときです。
とつぜん、ものすごい おとがして、
おおきな くるまが、どうろを こえて、
ほどうに はいってくるでは ありませんか。
にげだす、たくさんの ひとたち。
いくつかの ロボットは、
くるまを とめようと、ひっしに なります。
その ロボットたちに、
とりおさえられる おおきな くるま。
そこから でてきた ロボットは、
あたりかまわず、わめき ちらします。
モウ イヤダ
モウ イヤダ
コンナ シゴト シタクナイ
タスケテ タスケテヨ...
まっかになった ロボットの かお。
どうやら、オーバーヒート しているようです。
みんな どうしていいのか わからず、
ただ だまって いました。
すっと ロボットのまえに、
つめたいタオルが さしだされました。
しずかに ほほえむ、エアの すがたが ありました。
ロボットに、タオルを てわたすと、
キッと てつで できた、
はしらの かげを にらみます。
そこにいた にんげん。
それは、このロボットの メカニックでした。
このまちが えらんだ、
ロボットを かんりする ひとです。
ロボットが いかりくるって、
にんげんを おそったのでしょうか?
ロボットの システムが おかしくて、
オーバーヒート したのでしょうか?
それは、ちがいます。
やりたくないことを やらせて。
それを いやだとも いわせない。
そんな メカニックに もんだいが あるのです。
ロボットの めから、なみだが あふれました。
まちに、また へいわが もどりました。
だれも けがをしたひとは いません。
「ほんとうに わるいのは、べつに あるのに」
あぶらくさい かぜが、
まちのなかを つつみこんでいきます。
あの レストランで、コーヒーを のもう。
エアは、しずかに あるきだすのでした。
めのまえで うつむく しょうじょに、
なんと いってあげれば いいのでしょうか。
まっくろい くもに おおわれた まち。
たいようの ひかりも ささない まち。
そんな かなしいかおをした まちに、
エアは たどりつきました。
どこからか、さけびごえが きこえます。
むこうから、なきごえが ひびいてきます。
みみを ふさぎたくなるような まいにちを、
この まちの ひとびとは すごしているのでした。
つぎのひのこと。
エアは、ひとりの おとこのこに であいました。
ほんをもって、あたりを きょろきょろ している、
おとこのこ。
なにかを さがしているようです。
エアは、おもいきって、おとこのこに こえを かけました。
ふりかえる、おとこのこ。
てにもった ほんには、
オレンジいろの たいようが かかれています。
おとこのこが さがしているもの。
それは、この たいよう でした。
エアは、おとこのこに、たいようは そらにある、と
まっくろい くもを ゆびさしますが、
おとこのこは しんじようとしません。
たいようは、せかいじゅうを えがおにかえる、
まほうの ひかりだよ。
それが、あんな くものうえに あるもんか。
おとこのこは、わらいながら とおりのむこうへと
あるいていくのでした。
そのひの よるのこと。
まちは、おおあめに なりました。
どんどん ふりつづける あめ。
やみそうな けはいは ありません。
その あめのなかを あるく、まちの ひとびと。
まいにち、くるしいことばかり。
もう、あめに うたれるくらい なれてしまったのです。
その かなしそうな めに。
その さがったままの かたに。
その くたびれた ためいきに。
みんな なれて しまった。
そのときです。
どしゃぶりの あめの なか。
ひとつだけ あめの ふらない ばしょが ありました。
そこに たっている ひと。
エアです。
えがおの エアです。
その かなしそうな めに。
その さがったままの かたに。
その くたびれた ためいきに。
えがおを むける、エアが たっているのでした。
まちの ひとびとは、ふしぎそうな かおをして、
エアの まわりに あつまってきます。
あの おとこのこも、やってきました。
エアは、めのまえにいる しょうじょに、
やさしく ほほえみかけました。
すると、どうでしょう。
しょうじょのかおに えがおが もどりました。
それまで ふっていた あめが、すこし よわく なりました。
となりの おとこのひとが、えがおに なりました。
その となりの おんなのひとも えがおに なりました。
みんな、みんな えがおになりました。
えがお。
えがお。
すてきな えがお。
だれかの えがおが、
だれかの えがおを つれてきます。
めのまえで うつむく しょうじょに、
なにも いう ひつようは なかったのです。
「かなしみは、かなしみを よんできちゃうよ」
まっくろい くもの きれまから、
まっしろい ひかりが さしこみました。
たいようだ。
たいようを みつけたよ!
おとこのこの、うれしそうな こえが、
まちじゅうに ひびいているのでした。
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