エア と あらしのとう

 まっくろになった くもりぞらをみあげて、
 いそいで かいものを おわらせるように、
 エアは しょうてんがいを はしりだしました。

 ここは、たかい たかい とうのある まち。
 きのうまで、はれたひが つづいたのに、
 きょうは たいようも みえません。

 あしたは、きっと あめがふるんだろうな。

 てのひらを そらにむけて、
 エアは しずかに おもうのでした。

 つぎのひ。

 エアは、いえのなかで のんびりと
 ほんをよんでいました。

 そとは おおあらし。

 だれひとり、そとにでているひとは いません。

 どのおみせも、いりぐちをしめて、
 あめが はいってこないように しています。

 ぱたん、と ほんを とじる、エア。
 みあげた まどのさきに、おおきな とうが みえました。

 ほのおの きえた とう。
 
 1ねんまえまでは、おおきな ほのおが ともっていたそうです。

 それが、おおきな じしんが おきて、
 かたむいてしまった とうに、
 ふたたび ひが ともることは ありませんでした。

 だれかの こえがして、
 エアは しせんを となりのいえに むけました。

 そこには、ちいさな おとこのこと、
 おおごえを あげている おんなのひとが みえました。

 あらしのなか はしりだす、おとこのこ。
 それを ひっしで おいかける、おんなのひと。

 それに きづいたのか、
 そこかしこの いえから、たくさんのひとが とびだしてきます。

 エアも、たちあがると、
 かさを てにして そとにとびだすのでした。

 たくさんのひとが あつまっています。
 そこは、あの とうの いりぐちでした。

 だれも はいれないように していた いりぐちは、
 かぎと とびらが こわされています。

 あの おとこのこの しわざでした。

 うえのほうから こえがします。
 おとこのこの こえでした。

 こえは、どんどん うえに あがっていきます。

 まちのひとたちは、
 ふあんそうに とうを みあげるばかり。

 まちの きまりで、
 だれも とうに のぼることは ゆるされないのです。

 エアの うしろのほうで、
 こえが しました。

 そこには、あの おおごえを あげていた おんなのひとが、
 おとこのひとに うでを おさえられているのが みえました。

 おとこのこを、とめにいこうと しているようです。

 まちのひとが、
 しずかに つぶやきました。

 あの おとこのこは、
 じしんのせいで りょうしんを なくしたこと。

 じぶんだけ いきているわけにはいかない、と
 なんども じぶんを きずつけたこと。

 そして、

 あの おんなのひとの ことばに、
 いきることを きめたこと。

 せかいじゅうから、
 じしんのことを きいた ひとびとが、
 まちのひとたちを たすけてくれたこと。

 エアは、はしりだしました。
 とうに むかって、はしりだしました。

 そのときです。

 だれかの さけびごえが きこえました。

 とうを みあげると、
 そこには はしごに しがみついている、
 おとこのこの すがたが みえました。

 とうの いちばんうえ。
 そこに、ひを ともす はしらが あります。

 そこにいくには、
 かいだんではなく、はしごを のぼらないと いけません。

 あらしが、ようしゃなく
 おとこのこを おそいます。

 それでも、ひとつ ひとつ、
 はしごを のぼっていく おとこのこ。

 まちのひとが しんぱいするなか、
 ぶじ、はしらまで たどりつきます。

 それは はじめ、ちいさな ほのお でした。
 そして、ゆっくりと おおきくなっていきます。

 あっというまに、
 ほのおは、おおきく おおきく すがたを かえていきます。

 おとこのこが、したを みおろしています。

 どうして、とうに ほのおなんか。

 おんなのひとが なきながら、さけびました。

 「せかいじゅうに、ありがとうを つたえたかった。
  ぼくには これしか できなかったんだ!」

 おとこのこの こえが、
 まちじゅうに ひびきました。

 エアは、しずかに ほほえみます。

 ほのおに てらされるように、
 そらが その いろを かえました。

 すこしずつ、はれわたる、そら。

 きっと、この ほのおは、
 とおくのまちからも みえることでしょう。

 とうを おりてきた おとこのこを、
 おんなのひとは やさしく だきしめるのでした。

執筆日:2008年7月17日 00:00 作:まみや
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