エア~ガレキのペンダント~

 町中を埋め尽くすほどの、たくさんの人に見守られて、
 今、一人のおじいさんが、息を引き取りました。
 宇宙の星々のように、数え切れない程の涙が、ほほを伝います。


 叫ばれる、おじいさんの名前。
 決して、届かない、その名前。
 エアも、小さく、その名前をつぶやいて、静かに涙を流すのでした。


 エアが、おじいさんと出会ったのは、数日前のこと。
 おじいさんの持つ、不思議な雰囲気に惹かれたエア。
 たくさんの人に囲まれて過ごす、おじいさんに、エアは、その理由を尋ねました。


 すると、おじいさんは、汚れたペンダントを見せてくれたのです。
 ペンダントの先についているのは、きれいな宝石でも、輝くレリーフでもありません。
 それは、小さく砕けたガレキでした。


 そこに、小石で刻んだ傷跡があります。
 おじいさんは、にっこりと微笑むと、オレンジ色に染まっていく夕方の空を見上げました。
 そして、その思い出のガレキについて、話し始めるのでした。


 その数日後、おじいさんは、急に倒れ、帰らぬ人になったのです。


 一人の青年が、立ち上がりました。
 そして、おもむろに、ポケットから、一つの勲章を取り出します。
 その青年は、遠い国の兵隊でした。


 今は、平和なその国。
 おじいさんが、平和をもたらしたのです。
 青年は、その当時のことを、涙を流しながら話しました。


 それに応えるように、若い女性も立ち上がります。
 今は、立派に歩くことが出来る、その女性も、数年前まで、車椅子で生活をしていました。
 また、自分の足で地面を踏みしめることが出来るようになった。


 それも、おじいさんのおかげでした。
 次々に、おじいさんとの思い出話しを始める、町中の人たち。
 それは、どこまでも続く幸せの道のように思えました。


 その時です。


 誰かが、自分に注目するように叫びました。
 その声に、みんな、静まり返りました。
 それは、一人の郵便屋さんでした。


 手には、一通の手紙があります。
 その手紙には、たった一言だけ、文章が書かれていました。
 おじいさんの字です。


 その言葉を聞いたとき、エアは、
 おじいさんが話してくれたことを思い出しました。


 どうして、自分は結婚しなかったのか。
 どうして、世界中を旅することになったのか。
 どうして、こんなに、たくさんの人が、おじいさんの死を悲しむのか。


 それは、おじいさんの母親の遺言がきっかけでした。
 とても大きな地震が、この町を襲いました。


 おじいさんの母親は、まだ、赤ん坊だったおじいさんをかばうように、
 ガレキに埋もれたまま、発見されました。
 その手に、おじいさんと、あの、砕けたガレキを抱いたまま。

 順番に回ってきた、手紙を受け取ったエアは、
 涙を抑えることが出来ませんでした。

 

 「あなたを あいしてる からね」

 

 それは、おじいさんのペンダントに刻まれた言葉と同じものでした。
 おじいさんが、生涯をかけて、たくさんの人の伝えたもの。


 それは、「愛」でした。
 おじいさんの母親から受け継いだ、無限の愛でした。


 この想いを、今度は、自分たちが世界に広めよう。
 そこにいる、誰もが、心に固く誓いました。
 きっと、愛に満ちた世界がやってくるでしょう。


 輝く星が、2つ、空に灯るのでした。

 

執筆日:2008年5月22日 01:16 作:まみや
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