滑らかに流れる川の水を冷たく感じることに、エアは季節の流れを感じました。
ここは、小さな2つの村の間を流れる、浅く長い川。
道行く人々も、のんびりと、春の風を感じているようでした。
次の日のこと。
エアが、買い物をしようと、橋の上を渡ったときのことです。
一人の女の人が、誰かを探しているのが見えました。
エアは、静かに微笑むと、少し離れた場所から、女の人を振り返ります。
しばらくすると、男の人がやってくるのが見えました。
照れくさそうに、あいさつを交わすと、橋を越えて、川沿いを歩いていきます。
エアは、川の反対側を歩いて、ついていくことにしました。
その先には、大きな木があることを、エアも知っていました。
約束の木。
その木は、そう呼ばれていました。
この木の下で、永遠を誓った二人は、いつまでも幸せになれる、
という言い伝えが、そんな名前をつけたのかもしれません。
約束の木の下へと歩いていく、二人。
男の人は、緊張しているのか、顔がこわばっています。
女の人も、何となく落ち着きません。
二人が、木陰に入りました。
エアは、心の中で二人の幸せを祈ると、来た道を戻って、買い物へと向かうのでした。
その日の夜のこと。
まるで、ベッドが獣にでもなったように揺れるのを感じて、エアは、その場に飛び起きました。
地震です。
大きな地震が、村を襲ったようでした。
エアは、よろけながらも、窓から外へと非難しました。
まだ、揺れの収まらない村から、たくさんの悲鳴と怒号が聞こえてきました。
隣の家の窓から、小さな子供が、誰かに放り投げられたように、飛び出してきました。
窓の奥からは、誰かの影が見えました。
きっと、この子供の親でしょう。
エアは、すぐに子供を、そばにいた人にお願いすると、急いで、家の中に飛び込んでいきます。
ものすごいホコリと、どこからか出火した煙で、ほとんど前が見えません。
家のあちこちで、天井が崩れる音が聞こえます。
足が震えました。
恐怖で、血の気が引いていくのが分かりました。
それでも、エアは、歩き続けました。
その家が、倒壊する瞬間。
女の人を抱えたエアが、間一髪、窓から飛び出してくるのでした。
夜が明けました。
地震があったのが、嘘のように、辺りは静まり返っています。
誰一人、何かを口にする気力もありませんでした。
その理由。
それは、川の向こうの村。
あの、女の人の暮らす村が、焼け野原になっていたからでした。
ガレキの下。
倒れた柱の脇。
焼け落ちた、庭にあった木の陰―。
そのどこにも、人の気配がしません。
誰も、助からなかった。
その思いが、残された村の人々にとって、どれだけの重みがあるでしょう。
沈黙を裂くように、誰かの声が聞こえてきました。
それは、あの、男の人でした。
女の人の名前を叫びながら、何度も、何度も、地面を殴りつけました。
そこに、"地震"がいるかのように。
エアが、優しく男の人の肩に触れました。
そして、同じ悲しみ色をした涙を流します。
男の人が、手が血だらけになるほど、地面を殴る理由。
それは、たった一つの後悔のせい。
昨日、約束の木で、男の人は、自分の気持ちを打ち明けることが出来なかったのです。
明日、もう一度会いましょう。
そう言って、別れた二人。
―明日は、来ませんでした。
それが、悔しくて、悔しくて。
どうしようもありませんでした。
男の人が、涙混じりの声で、女の人の名前を叫んだ、その時です。
誰かが、男の人の名前を呼びました。
振り返る、男の人と、エア。
男の人が、女の人の名前を叫びながら、駆け出します。
お互いの命を確かめるように、力強く抱きしめあう、二人。
そこにいたのは、女の人でした。
他の村の人たちも全員います。
地震を察知した村の学者が、全員を非難させていたのです。
どうやって、地震を察知したのか。
今まで、どこにいたのか。
そんなことは、誰も尋ねません。
今は、お互いの無事を祈るだけでした。
「愛してる、が言えるとき。愛してる、を言わないと」
雲の間から、光が差し込みました。
その光が、2つの村を。
そして、永遠を誓った二人を照らし出すのでした。
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