エア~すくいの おとを~

 どこまでも続く草原の中にある、一本の鉄で出来た道を、線路と呼ぶことに、エアは初めて知りました。
 ここは、鉄道の町。
 今日は、遠くの町から、大きな機関車がやってくる日です。
 機関車とは、一体、どんな乗り物なのだろう。
 エアは、心をときめかせながら、線路の向こうを見つめているのでした。

 次の日。
 町中の人たちが、機関車の周りに集まっていました。
 遠くの町の、珍しい食べ物や布。
 見たことのない色の石や、たくさんの本。
 そのどれもが、エアと町の人たちの心をつかんで離しません。
 大きな汽笛の音が聞こえました。
 機関車が、他の町へと向かうのです。
 エアは、町の人たちに別れを告げると、機関車の客席に乗り込みました。
 窓側に座って外を見やると、大きな風見鶏が見えました。
 この風見鶏が安定していれば、機関車の旅も安全なものになるよ。
 機関車の整備をしていた人の話を思い出します。
 ふと、気がつくと、若い男が隣の席に座っていました。
 手には、ギターケースを持っています。
 エアは、にっこりと微笑みながら、男にあいさつをしました。
 男は、軽く頭を下げて、あいさつを返します。
 もの静かな男。
 それでも、機関車が出発するころには、とても楽しい会話が飛び交うようになるのでした。

 何かを切り裂くような音がして、エアは目を覚ましました。
 どうやら、しゃべり疲れて眠ってしまったようです。
 窓の外は、ものすごい風。
 いつの間にか、夜になっています。
 突然、運転車両の方から、誰かの声が聞こえてきました。
 それは、隣にいたはずの男の声。
 どうやら、風が強いので機関車を停めるように言っているようです。
 エアも、その声に心配になり、運転車両に向かいます。
 けれど、運転手は笑いながら、窓の外に備え付けてある風見鶏を指差しました。
 風見鶏が安定している。
 機関車が事故を起こすようなことは無いさ。
 そう言って、取り合ってもくれません。
 男は、首を振りながら、運転車両を出て行きました。
 エアは、必死になって運転手に訴え続けます。
 しばらくすると、客室の方から、何かが聞こえてきました。
 それは、素敵なギターの音。
 客室に、大きな拍手が起こりました。
 エアは、はっと、何かに気付いて、客室へと戻っていきました。
 ギターを弾いているのは、やはり、あの若い男でした。
 次の曲が始まります。
 客室にいた、乗客たちは、みんなギターを聞きに、最後尾の客室に集まってきました。
 その時です。

 突然、窓ガラスを揺らす音が大きくなったかと思うと、先頭車両の方から、ものすごい音が聞こえてきました。
 そして、機関車は急ブレーキをかけたように、火花を散らして停まってしまいます。
 突然のことに、エアたちは驚きましたが、幸い、誰もケガをしたものはいません。
 エアが、転んでしまった女の子の頭をなでてあげていると、男が運転車両の方へと向かいます。
 すると、どうでしょう。
 そこには、横転した運転車両が見えるではありませんか。
 運転車両だけではありません。
 前から3つ目までの車両も横転していました。
 男は、大きな声で運転手を探します。
 エアや、他の乗客たちも、必死になって運転手を探しました。
 ガラガラ、と何かが崩れる音が聞こえると、そこには荷物に埋もれた運転手の姿がありました。
 幸い、運転手も無事でした。
 そして、何より、乗客にケガ人がいなかったのです。
 それは、あのギターのおかげ。
 ギターの音に誘われて、みんな最後尾に移動したからでした。
 運転手が申し訳なさそうに、男に謝っています。
 遠くに、救助の人たちの光が見えました。
 「ひとりが無くす命。ひとりが救う命」
 雨が降ってきました。
 エアの足元に、壊れた風見鶏が転がっているのでした。

執筆日:2008年4月 3日 10:23 作:まみや
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