いのちの扉

「はい、次の人どうぞ!

はいはい、君だよ、そこの君。山本さん!

そこに立って。そう、線がある所。

はい、OKです」

 

僕は言われるままに閻魔様の前に進み出た。

閻魔様は山のように大きな身体で僕を見下ろしている。

真っ赤な顔だけれど別に怖い風貌ではなく、どちらかというと近所のおじさんという感じだが、きっとこの世界ではすごくえらいんだろうなぁ・・と考えたりする。

 

「おや、あんた死んだのは初めてかね?

 そうか、じゃぁシステムから説明しなくちゃいかんねぇ。

 まぁ、大体のことはこの分厚い本に書いてあるから、ちょっとそこの椅子に座ってざっと目を通しておいて。

 読み終わった頃に、手元にあるベルスターで呼んでくれればいいから。

 

 はい、それじゃぁその次の人どうぞ!

 あらら、あんたまた来たねぇ~。今回の人生はちょっと早かったんじゃないか? どうだった? ・・・・」

 

僕は言われるままに分厚い本を手に、横の椅子に腰掛けた。

この本・・・広辞苑よりも分厚い。読むのに一体どれくらいかかるんだろうか・・・と、思ったけれど、焦っても仕方ないのでぺらぺらとページをめくってみた。

 

『正しい死に方とは?』から始まって、『転生の仕方』などが細かい文字でびっしりと書かれている。

僕は頭がくらくらしたので、斜め読みをしながら読み飛ばしていった。

 

3時間ほど本をぺらぺらめくり、ようやく全てに目を通したところでベルスターをならした。

ファミリーレストランでよく聞く、ピンポーンという音が鳴り響く。

 

「あいよぉ~。 だいたい内容はわかったかね?」

「いえ・・・まだよくは・・・。」

「まぁええわ。

 とにかく、人生が一回終わったらここで清算をすることになっているんだ。

 その本の最後に、いろんな得点が書かれていたろ? 『人をいじめる・・・マイナス20点』とか。

 まぁ、そうやって人生の色んな行動を採点していって、その結果によって次の人生のスタートラインが決まるんだ。

 今回の人生で得点を沢山貯めれば、次回の人生はちょっとだけいいところからスタートできる。

 お金持ちの家だったり、運動神経がよかったり。

 でも逆に、ポイントがマイナスだったら、ちょっとだけ不利なところからスタートになる。

 ちょっと貧乏だったり、音痴だったり。

 

 まぁ、つまり、ここで人生の『業』を決めていくんだわ」

 

「は・・・はぁ・・・」

僕は相槌を打つことしかできなかった。

何でここにいるのかも良くわからないまま、いつの間にか僕は死んでいたらしい。

 

「ん~と、おや、あんたの生まれはだいぶ貧乏だったんだねぇ。親の手伝いを良くしてたようだな。はい、+20点!

 あららぁ~、小学3年生の時にカメをいじめてるな。こりゃぁ、マイナス10点だな・・。

 む? 初恋の女の子にいじわるばっかりしてるなぁ・・。 まぁ、これは仕方ないか・・。マイナス3点」

 

閻魔様はブツブツいいながらそろばんをはじき、ドンドン僕の人生を清算していった。

その間僕は、正に針のむしろ状態で、閻魔様のジャッジをただ聞いていた。

 

「・・・ふむふむ、社会人になったら後輩の面倒をよくみていた・・・と・・。+5点で・・・。

 このままだとプラスで次の人生を送れそうだが・・・どれどれ・・・」

 

閻魔様の手が一瞬止まった。

 

「あ・・・・・・」

「ど・・・どうしたんですか?」

「あんた・・・自殺しちゃったんだねぇ・・」

閻魔様はがっかりしたような、困ったような口調でポツリと言った。

そう言われると、そうだったような気持ちがしてくる。

「自殺はマイナス評価が大きいんだ・・・。え~と、マイナス100点で・・・・、最終合計はマイナス30点だ・・・

 残念だったなぁ・・いかんよぉ、自殺はぁ・・・もったいないなぁ」

 

「す・・・すみません」

 

「あんたの次の人生は・・・、『10歳の時に生死の境をさまよう』という業を背負ってのスタートだ」

「そ・・・そうなんですか!? ・・・そんな・・」

 

「死ぬと決まったわけじゃない。ちょっと試練が多いだけだ。

 

 いいかね、山本さん。

 人生は業を清算して過ぎてゆく。

 徳を積んでいけば、得点はプラスされ、悪いことをすればポイントはマイナスされる。

 そしてそれは、次の人生の業として引き継がれるんだ。

 

 あんたは前の人生で間違いを犯した。どうしても自殺したかったのなら、それは責められないかもしれない。

 しかし、あんたはその業を次の人生で清算しなくちゃいけないんだ。

 輪廻は終わることはない。

 あんたが次の人生も悪いことをして過ごせば、その次の人生に引き継がれる。

 

 いいかね。人生は『越えること』の連続だ。

 前の人生を越えて、よりよく生きていく必要があるんだ。

 

 時々、『死んでしまったら関係ないから、今の人生を楽しむ』という人もいるけれど、それは大きな間違いだ。

 今世の因果は来世に引き継がれる。

 

 来世でも諦めて、悪いことを続けてしまったり、怠惰になっていったら、その次の人生で更なる試練を背負うこととなる。

 そしてマイナスがかさんでしまって、超えられない業を抱えた時、人は『地獄』という救いにたどり着くんだ・・・。

 

 『地獄』は、お仕置きじゃぁない。 『究極の清算』だ。 それを越えれば、もう一度ゼロから人生をやり直せる。

 

 さぁ、あんたの次の人生がそこにある。その扉をくぐりなさい。」

 

僕は光り輝く扉に向かって歩いていった。

 

「今、あんたは母親の胎内にいる。まだあんたは細胞でしかない。

 そろそろ『魂』が宿る頃だ。その扉の向こうは、そんな『あんた自身』に繋がっている

 

 さぁ、進みなさい。

 

 いいかね。生まれた時に、片手に一つずつ、大切なものを握り締めているはずだ。

 今回の人生では、それを忘れずに生きなさい。

 

 つまり、『元気』と『勇気』だ。

 この二つだけは、使っても減らないようになっている。

 使えば使うほど、増えていく、特別なものだ。

 

 それを忘れずに、生きていきなさい。

 

 さぁ、いってらっしゃい・・・」

 

 

僕は、光の扉に向かって歩き出した。

懐かしいような、悲しいような、寂しいような、嬉しいような、そんな光に包まれながら、

僕は母親の胎内に戻っていった。

執筆日:2008年4月 1日 02:53 作:癒し人
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