エア~そらに いのる~

 島の真ん中に位置する村の中で、エアは村の産業である木の加工を手伝っています。
 とても平和な村でした。
 争いもなく、みんな笑顔で。
 毎日が、透き通った水のように流れていくのでした。

 ある日のこと。
 エアが、いつものように村の作業場へ向かう途中のことです。
 森の入り口の方から、誰かの叫ぶ声が聞こえてきました。
 急いで、声のする方に向かうと、そこには見たことのない人が、長い槍を持って立っています。
 エアには分からない言葉で、村の人たちに向かって何かを叫んでいました。
 その様子に、村中の人たちが集まってきました。
 それを見た、槍を持った人は、逃げるように森の中へと駆けていきます。
 エアは、あれが誰なのか尋ねました。
 森の洞窟に住む人たちだよ。
 村の人たちは、暗い声で、そう教えてくれるのでした。

 次の日のこと。
 小さな子供の泣き声が聞こえて、エアは目を覚ましました。
 宿の窓から外を見つめると、そこには、腕を怪我した男の子が泣いているのが見えました。
 そして、その子の父親が、怒り狂った顔をして、何かを叫んでいます。
 その声に、村中の人たちが集まってきました。
 それぞれの手には、鋭い刃物が見えます。
 エアは、それがどういうことか、すぐに気付きました。
 昨日の洞窟に住む人が、子供に怪我を負わせたのです。
 すぐに、宿を飛び出したエアは、森の中へと入っていく村の人たちを止めに入ります。
 しかし、誰一人として、余所者のエアの言葉を聞く人はいませんでした。
 裸足で、森の中を駆けていくエア。
 両手を一杯に広げて、村の人たちを止めようとしますが、すぐに払いのけられてしまいます。
 何度も、何度も立ち上がりました。
 そして、何度も何度も地面に転がされてしまいます。
 そうしているうちに、洞窟が見えてきました。
 洞窟の前には、槍や剣を持った人たちが大勢います。
 洞窟の周りの木は、全部切り倒されています。
 木の実を取れなくなってしまった、洞窟に住む人たち。
 それを無視して、木を切り倒し続けた、村の人たち。
 自分たちの生活を守るため。
 自分たちの思いを通すため。
 お互いを傷つけようとしているのでした。
 大きな声が聞こえます。
 一斉に走り出す、村の人たち。
 それを迎え撃つ、洞窟に住む人たち。
 争いが始まってしまう。
 そう思ったときでした。

 誰かの声が聞こえました。
 それは、とても悲しい声。
 涙が混じった、泣き声でした。
 村の人たちも、洞窟に住む人たちも、辺りを見渡しました。
 その視線が、ひとところで止まります。
 エアです。
 エアが、大きな声で泣きじゃくっています。
 村の人たちは、あんなに笑顔だったエアの顔が悲しい顔になっているのを見て、驚きを隠せません。
 洞窟に住む人たちは、泥だらけになって泣いてくれる少女の姿に、手を止めました。
 エアの姿に、そこにいた誰もが、肩を落としました。
 地面に、たくさんの武器が落ちる音が聞こえます。
 雨が降ってきました。
 それは、全てを洗い流す雨ではないかもしれません。
 それでも、一人の少女が流した涙が、争いを止めたのです。
 ゆっくりと立ち上がる、エア。
 手を合わせて、空に祈りました。
 「どうか、世界が平和でありますように」
 争いは終わりました。
 雨が上がる頃。
 きっと、祈りは届いていることでしょう。
 今は、雨が上がることを、みんな祈っているのでした。

執筆日:2008年3月19日 00:44 作:まみや
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