燦々と照りつける太陽の下、浜辺で食べる新鮮な魚の味に、エアは大きな海に感謝しました。
ここは、大きな港町。
潮の香りと、波の音。
漁師たちの笑い声と、大漁を祝う笛の響き。
その音に合わせて、海の神様の像の周りを、子供たちが回っています。
本当に、幸せな時間がながれていくのでした。
ある日のこと。
エアが、町を散歩していた時のこと。
港に面した小屋の前に、たくさんの人が集まっているのが見えました。
エアが覗き込むと、大きな海図を地面に広げて、何かを話しています。
海図を広げている、おばあさんの表情が、みるみるうちに強張っていくのを、エアは心配そうに見つめています。
港を出た船が帰ってこないのです。
通信があった場所から、今、船がどこにいるのかを、皆で話し合っているのでした。
今まで、船が帰ってこなかったことなど、一度もありません。
町の漁師たちも、エアも、ただただ、心配しながら水平線を見つめることしか出来ないのでした。
その日の夜のこと。
町に嵐がやってきました。
海も狂ったように波と風を巻き起こします。
どしゃぶりの雨の中、エアは、じっと砂浜に座り込んでいました。
町の漁師が手を引いても、首を振るばかり。
どうか。
どうか、無事に帰ってきて。
それだけを願い、水平線の向こうを見つめています。
そこに、海図を広げていた、おばあさんがやってきました。
そして、エアの横に、ひとつの袋を置くと、傘も差さずに座り込みます。
エアは、静かに微笑むと、袋の中身を開けました。
そこには、丸いおにぎりが入っていました。
おばあさんが、エアのために握ってきてくれたのです。
エアは、びしょびしょの手で、おにぎりを持つと、おいしそうに口に運びました。
エアとおばあさん。
嵐の中に、ふたつの希望が灯りました。
その時です。
誰かの声がして、エアは後ろを振り返りました。
見ると、町中の人が海の神様の像の前に集まっているではありませんか。
エアとおばあさんが、近づいていくと、皆、ただただ、神様に祈りを捧げていました。
この嵐の中、船を出すことはできません。
灯台の光だって、どこを照らせばいいのかも分かりません。
もはや、祈ることしか出来ないのです。
雨は、どんどん強くなっていきます。
何もかも切り裂くように、風が勢いを増していきます。
それでも、祈り続けます。
ただ、船の無事を祈りながら。
真っ黒い空の切れ間に、月の光が差し込むのでした。
次の日。
町中は、お祭り騒ぎでした。
皆の祈りが通じたのでしょう。
突然、嵐が止んだかと思うと、遠くの海に、船の灯りが見えたのです。
おばあさんは、涙を流しながら漁師の人たちに抱きつきました。
他の町の人たちも、神様がくれた奇跡に、何度も何度も、お礼を言いました。
たくさんの笛の音。
心からの笑い声。
その中に、エアの姿はありませんでした。
風のように、やってきて。
風のように、きえていく。
「神様は、いつもそばにいるのね」
潮混じりの風が、エアの髪を揺らしているのでした。
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