額から流れ落ちる汗を拭うと、手についた真っ黒いオイルが、エアの白い顔をキレイに汚しました。
ここは、カーレースの盛んな町。
赤い帽子をかぶった男の人が、青い帽子をかぶった男の人と、設計図を見ながら相談しています。
その奥では、イスに腰掛けた黄色の帽子の男の人がレースコースの写真を見つめています。
3人は兄弟で、エアは帽子の色から、それぞれ、アカ、アオ、キイロと呼んでいました。
レースの決勝は、明日。
少し離れた、大きな街で行われます。
エンジニアのアカとアオ。
そして、ドライバーのキイロ。
皆、真剣な目をしてレースの準備に励むのでした。
次の日。
いよいよ、レースが開始されます。
このレースで優勝すれば、世界中にその名が知れ渡り、一躍有名人の仲間入り。
どのドライバーも、自分と応援してくれる仲間の夢を乗せて、アクセルを踏み出しました。
エアは、観客席の一番前でキイロを応援します。
どんどん前の車を追い越していくキイロ。
その度に、応援に来ている町の人々は、大きな歓声を上げるのでした。
キイロの乗った車が、エンジン不良により、リタイアする、その時まで。
その日の夜のこと。
アカ達の家には、重苦しい空気が圧し掛かるように流れていました。
リタイアになった原因は、オイルの中に入った小さなゴミでした。
確認を怠ったのは、どちらか。
アカとアオは、珍しくケンカになってしまいました。
キイロが止めようとしますが、アカもアオも譲りません。
次第にエスカレートして、キイロの運転の仕方に問題があったと、今度は三つ巴の大ゲンカです。
整備室に響く怒りの声。
倒れるデスクと、散らばる書類。
小さなライトに照らし出された、暗く悲しい男の姿は、どれだけ情けないことか。
アカが拳を握りしめ、アオの顔を目掛けて振り下ろします。
その時でした。
書類が散らばったコンクリートの床を、頬を押さえたエアが転がりました。
アオをかばったのです。
その姿に、3人とも我に返りました。
エアは、ゆっくりと立ち上がると、何も言わず、じっと3人を見つめました。
そして、床に落ちていたタオルを拾い、壊れたままになっていた車のボディを拭き始めました。
大切な友人を慰めるように。
愛した人を愛でるように。
自分の子供を包み込むように。
アカが声をかけようとすると、エアは手を止めて、窓の外に視線を向けました。
そこには、心配そうに見つめている町の人達の姿がありました。
月明かりが、3人の男の涙を照らし出すのでした。
次の日。
整備室には、いつものような活気が戻っていました。
そこにいるのは、3人だけではありません。
町の人たちも、慣れない手つきで作業を手伝っています。
そこにいないのは、エアだけ。
朝、目を覚ましたアカは、机の上にある一枚の手紙を手に取りました。
「誰が悪いとかじゃなくて、悲しんでいる人に目を向けてあげて」
暖かな風が吹く道を歩くエアの耳に、大きなエンジン音が聞こえてきました。
それは、兄弟からのお礼のコトバ。
風のようにやってきて。
風のように消えていく。
太陽の光が、白い顔についた黒いオイルを照らし出しているのでした。
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