旅行でもクリスマスでも、準備をしている時が楽しい。
それがみんなで準備をする大学祭となると、確かに調整が大変な部分はあるけれど、本当に達成感があるし、みんなと「仲間でいられることの喜び」を感じ合える気がして、私は大好きだ。
私たちの大学サークル『イベントサークル くるくくる』は、『LOVEボックス』と称して、カップル専用の5分間ムード個室を提供することにした。もちろん、サークル会員の勧誘も目的としている。
扉がついた小部屋に、カフェテーブルと椅子を置き、そこに横並びに座れるようになっている。
扉を閉めると、中はほのかなあかりが灯されていて、間接照明がアーティスティックな壁画を照らす。
この壁画にお祈りをすると、二人の恋は永遠になるというイベントボックスを、5分間300円で貸し出す。
イベントチームは二手に分かれていて、男子を中心としたチームは、個室そのものや大きな看板をペンキまみれで制作している。
女の子を中心としたチームは、壁のイラストや、照らされる壁画を、女の子ならではの感性で制作している。
明日がいよいよ大学祭という今日、私とサエコでその個室の壁画を完成させているところだ。
他のチームもいよいよ大詰めで、今日の夜にはなんとしてでも完成させてから帰りたい。
サエコは私とは対照的に明るくて、男子のウケもいい。
ノリがよく、すぐに誰とでも打ち解けることができるから、引っ込み思案な私をぐんぐんリードしてくれる。
今回の壁画も、本当はサエコがひとりで描くはずだったが、「ノリちゃんも一緒にやろう」と、誘ってくれた。
周りから描いていき、肝心の壁画の部分は最後に残していた。構図がなかなか決まらないのだ。
「ねぇねぇ、こういうのいいと思わない?」
「う~ん、そうね。」
「あれ? 反応イマイチ? じゃぁ、こういうのは?」
「う~ん、それもいいと思う」
私はつい人任せにしてしまう癖があり、こういった即決即断というのが大の苦手だ。
「もう~~、どっちよぉ~」と言われても、なかなか決めることができない。
「あたしさぁ、ノリちゃんの感性好きよ。ほら、さっきの柱の絵、あれ素敵だったじゃん。
あんな感じで何かいい雰囲気の無いかな。 ノリちゃんに決めてもらいたいな。」
サエコは、本当に誰に対しても優しい。
サバサバし過ぎていて、時々誤解されることもあるけれど、私はそういうところも含めて好きだ。
「・・・わかった。じゃぁ、描いてみるね」
「うん、このメインの部分はノリちゃんに任せた!
こっちは後ここだけだから、あたし男子チームのほう手伝ってくるね!」
そういってサエコはペンキまみれの男子チームに割り込んでいった。
あっという間に歓迎されて、あっという間にその場を仕切り始めている。
私はサエコがちょっと羨ましいなと思った。
「集ーーー合ーーー!!」
くるくくるのリーダーである山臣先輩から合図がかかる。
その日の夜10時に、私たちの『LOVEボックス ~くるくくる~』は完成した。
「みんな本当にお疲れ様!
明日はくるくくるが中心となって、大学祭のキューピットになろうぜ!」という掛け声とともに、大きな拍手が沸き起こった。
「すげぇいい感じじゃん!」
「超センスいいね!」
「ロマンチックゥ~!」
みんなが口々に自分たちの作品を褒める。
早速中に入って恋人ごっこをしている男子二人が笑いを取っていた。
私の描いた壁画は、優しく神秘的なムードで男子カップルを祝福していた。
男子カップルの一人がサエコに声をかけた。
「サエコ! この壁画すげーな!!」
すると周りのみんなも、口々に壁画を褒め始めた。
「うんうん、すごくマッチしてるよね!」
「教会みたいな雰囲気出してるね!」
「色使いがいいよね!」
サエコはその中心で笑っている。
私はそれを遠くからみながら、喜んでいる。
でも、心のどこかで、それを妬んでいる私がいる。
理由は痛いほどわかっている。私の大好きな伊沢くんが、サエコの隣で楽しそうに笑っているからだ。
確かに、壁のほかの部分はサエコも一緒に作ったし、壁画を描くように薦めてくれたのはサエコだから、彼女が中心でもおかしくない。
サエコは中心で笑っている・・私は遠くで喜んでいる・・・。
その日の帰りは、夜が遅いからということで、いくつかのグループに分かれて男子の車で近くの駅までそれぞれ送ってもらった。
グループ分けをしている時も、車に乗り込んでいる時も、例えそれが運良く伊沢君の車になっても、私の心にはずっとモヤモヤガかかり、素直には喜べなかった。
助手席でずっと窓の外を見ている私を気遣って、伊沢君が声をかけてくれた。
「ノリ、どうしたん? 今日は疲れた?」
「ん・・・なんで?」
「いや、なんか黙ってるからさ。気まずいじゃん」
「ごめん・・・ちょっと疲れたかも」
伊沢くんは「そっか」と言って、私の最寄り駅に通じる信号をカチッカチッと音をたてながら左折した。
もうすぐ家に着いちゃう。
私の心は焦っていた。何かいわなきゃ・・・。
「やっぱサエコはすごいよね。 あの壁画もみんな誉めてたし・・・」
けれど、出てくるのはこんな皮肉いっぱいの台詞だけだった。
「あれ、ノリだろ?」
「え・・?」
私は思わず伊沢君を見た。思いっきり目が合ってドキドキする。
「あの壁画、ノリっぽいもん。 多分、みんなわかってるって」
「あ・・・・・・・」
「すげぇいいBOXになったな。 サンキュな」
「あ・・・ありがとう」
「ノリの駅、ここだっけ? 本当にいいの? 家までじゃなくて」
「うん・・、自転車停めてあるから」
「そっか」
と言って、伊沢君は握手を差し伸べた。
「明日、頑張ろうな」
私は恐る恐る手を握り返すと、伊沢君は一度ブンッと上下に振って、
「じゃぁ、きぃつけてな」
と、手を離した。
「うん、送ってくれてありがとう」
伊沢君の車は走り去っていった。
角を曲がるまで見送ったけれど、ブレーキランプは5回点滅しなかった。
でも、私は思わずニンマリしてしまった。
そこへ、サエコからメールが入る。
携帯の外側についている小窓に、『ごめんね』という件名がスクロールした。
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