甘い香りに誘われるように辿り着いたその町は、優しさに溢れた不思議な町でした。
町の真ん中に、大きな真っ白い建物が見えました。
建物の中は、外よりも、もっと甘い香りがして、真っ白な外壁とは裏腹に、色とりどりの何かが輝いていました。
エアは、それを指でつまんでみます。
甘い香りの正体。
それは、おいしそうなキャンディーでした。
周りを見ると、町の人たちが、次々とキャンディーを受け取っています。
エアも、このおいしそうなキャンディーを食べたいと思い、キャンディーを配っている人のところへ持っていきました。
しかし、その人は首を振るだけ。
ただでは、あげられないというのです。
エアは、首をかしげました。
そして、町の人がどうして、キャンディーがもらえるのかを、注意深く観察します。
どうやら、町の人の為に何かをすると、その分のキャンディーがもらえるようです。
誰が、どれだけ、誰かのためになったのかは、町中にいる監視員さんが紙に書いているようでした。
エアは、にっこりと笑うと、さっそく町へと繰り出すのでした。
その日の夜。
エアは、小さな袋一杯にキャンディーを持って、宿に帰ってきました。
誰かの役に立ちたい。
誰かの笑顔が見たい。
それは、エアが常に願っていること。
たくさんのキャンディーは、エアの心を優しく包み込みました。
ポケットに入れた、小さな紙。
キャンディーの引換券です。
持ちきれないキャンディーは、少しずつもらえる仕組みでした。
たくさんの人を幸せにした人は、たくさんの引換券を持っています。
それで、毎日、キャンディーを食べることができるのです。
明日も、いっぱい、いっぱい、誰かの役に立とう。
エアは、真っ赤なイチゴ味のキャンディーを舌で転がしながら、お月さまに誓うのでした。
次の日。
昨日の分のキャンディーをもらおうと、真っ白な建物へ向かったエアの耳に、誰かの怒った声が聞こえてきました。
誰にどれだけのキャンディーを渡せばいいのか書いてあった紙を、間違えて燃やしてしまったというのです。
これでは、キャンディーをもらえる数が分かりません。
それに、本当に、その人が誰かの役に立ったのかさえも、分からないのです。
キャンディーをよこせ。
嘘つきを信じて、バカを見たよ。
明日からの生活、どうしたらいいんだ。
皆、口々に文句を言い出しました。
それを見ていたエア。
とても悲しい気持ちになりました。
この町の人たちは、みんなで助け合っていると思っていたのに。
誰かの役に立ちたいと思い、そのお礼にキャンディーをもらっていたと思ったのに。
みんな、キャンディーが欲しい為に、誰かに優しくしていたなんて。
怒った誰かが、置いてあるキャンディーを自分の袋に詰め込みました。
それを見て、町中の人が、キャンディーの奪い合いです。
誰かの叫び声。
人を傷つける音。
倒れていく力の弱い、女性とお年寄り。
砕け散る、キャンディー。
それを拾う、小さな子供たち。
もう、誰にも止められない。
誰もが、そう思った、その時です。
建物の奥から、大きな袋を引きずって、エアがやってきました。
袋の中には、たくさんのキャンディーが詰まっています。
みんな、エアの方を向いたまま、黙っています。
エアは、自分の袋の中に入っていたキャンディーを、側にいた女の子に差し出しました。
袋の中のキャンディーが終わると、引きずってきた袋の中のキャンディーを配り始めます。
ひとつ、またひとつ、キャンディーは配られていきました。
最後の一粒を、キャンディーを配っていた人に手渡すと、エアは静かに微笑みます。
「みんなで分け合えばいいの。大切なのは、キャンディーじゃなくて、誰かの笑顔でしょ?」
静かな建物の中に、エアの足音だけが響きました。
外に出て行くエアの言葉に、誰もが大きくうなずきました。
建物からは、たくさんの「ごめんね」が聞こえました。
オレンジ色に染まる空。
甘い香りの風に吹かれて、エアは旅を続けます。
口いっぱいに広がる、イチゴ味のキャンディーを舌で転がしながら。
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