夜中に妙な気配がして、ふと目が覚めた。
僕は今、仕事で東京に出張に来ていて、昨日は夜中まで接待で飲んだ。
明日は休みをもらっているので、東京で一泊をして朝方新幹線で帰ろうと思い、会社の金で安いホテルに泊まっている。
カーテンを少しだけ開けて寝るのがいつもの癖で、外からはネオンが差し込み、部屋をカラフルに照らしている。
どこからともなく、「ええなぁ~・・ ええなぁ~・・・」と言う声が聞える。
隣の部屋の会話が壁越しに聞えているのかな・・・と思い、壁の方を見ると、そこに死神がいた。
「うわ!!」でも「ひぇ~~!!」でもない。
こういうときに人は言葉が出なくなるんだということを初めて体感した。
でも、意外と頭の中は冷静だった。
死神は、ナイトメアビフォアーなんとかという映画のようなドクロの顔をしているが、あんなに長身ではなく4頭身くらいのずんぐりむっくりな身体をして立っていた。カマではなく、包丁でもなく、そいつはなぜか小さな子ども用の、プラスチックスコップを持っている。
「ほんま・・ええわぁ~・・・ むしろズルいわ・・」
死神がボヤボヤとつぶやいている。よく見るとくわえタバコなんかしていて、時々ポワ~っと、目の奥の空洞を照らしている。
「な・・・何がですか?」
「自分、ピンピン生きとるな。 ワシもこの前までな、そこで寝とってんで」
深く考えると非常に怖いことを言っているんだが、僕の頭の中では「あ、じゃぁおそろいですね」なんて間の抜けた言葉が頭をよぎる。
「自分、死神って怖いと思ぉてる?」
「えぇ・・・まぁ、映画で出てくるようなのは怖いと思います・・・」
「そうやろ? じゃぁなんでビックリせぇへんねん」
「いや・・・なんか、拍子抜けしちゃって・・・」
「なんでやねん。 ワシが6頭身だからか?」
「6? ・・・えぇ、意外と可愛いな・・・なんて」
「しもたぁ~・・・やっぱスコップはあかんねんな」
「なんでスコップなんですか? カマとか、そういう物騒なものの方が死神らしいんじゃないですか?」
「あんなもん振り回して手ぇ切ったらどないすんねん! 手は商売道具やで!」
「はぁ・・・すみません・・」
「自分、まだぴんぴんしとるな。 そろそろ死ねへんか?」
「明日名古屋に帰ります・・」
「うわぁ~・・・やってもぉたな。 これはホンマにやってもぉたな。 てゆうか、ワシ出損やんか」
「そもそも・・何をしにきたんですか?」
「殺しに来たに決まってるやん! でも自分ぴんぴんしとるやんか。 タケやんのやつ、ガセネタつかませよった」
「タケやん・・?」
「死神の情報屋や。 死にそうなやつの情報を色々もッてんねん。 そういう情報を1件2,625円で売りさばいとんねん」
「ぜ・・・税込みですか・・」
「当たり前やがな。 地獄の沙汰も血税でなりたっとんねん!」
「てゆうか、まだ死なないんですけれど、もしも僕を殺したらどうなるんですか?」
「自分、なんで死神がおるか知っとる?」
「いえ・・・漫画とかでしか知りません」
「あんなもん、作り話ばっかやがな。信じたらあかんで。
ええか、死神に殺されたヤツは死神になんねん」
「え? 死神って、ひとりじゃないんですか?」
「そうや、ほんでひとり人を殺したら死神卒業や。晴れて天国への切符をもらうわけや」
「へぇ~・・善人が勝手に天国に行くんだと思っていました」
「善人やからって誰でも彼でもホイホイ天国に行ったら渋滞してまうやろが。 リスクを伴わんと楽な道にいけるかい、アホやな」
「・・・誰がアホですか」
「ワシかて、人なんて殺したくないやんか。 ワシが死神に殺された時はビックリしたでぇ。
自分みたいにめぇ覚めんかったもんな。寝てる最中にばっさりや」
「・・・寝てたらビックリできないじゃないですか」
「やかましいわ! 気付いたら死んでてびっくりや!」
「・・・はい、すみません」
「ほんでいきなり、『さぁ、行きましょうか』なんて東京弁で言いくさって、閻魔様の前につれてかれたんや。
閻魔様に『どの道具にする?』て聞かれて、カマとか包丁とか色々あってんけど、いきなりで怖かったからスコップにしたら・・・・・こんなもんでひと殺せるかい!!」
死神は持っていたスコップを壁にコツンと投げた。
からから転がるスコップを、4頭身が取りに行く。
「でも・・・死神って『寿命が終わりかけの人』のところに行くんじゃないんですか?」
「自分、わかってへんな。
ピンピンしとるやつと、死にそうなやつ、自分が死神ならどっちに行く?」
「あ・・・・・死にそうな人です」
「せやろ? 死ぬ準備なんて誰もできへんやん。 でも、死にそうなヤツは、『ちょっと殺してもええかな』って言うと、『楽にしてください』って言ってくれんねん。 だから、死神はみんな死ぬ間際に出てくんねん」
「・・・・優しいんですね」
「誰がじゃ、アホ」
といったかと思うと、タバコをポワーっと光らせて、すぅ~っと死神は消えていった。
「あ・・・・・ 死神さん・・・・」
ちょっと不思議だったな・・・と思っていたら、誰もいないのにスリッパがペタペタと動く。
そして出口まで行ったかと思うと、カチャリと鍵をあける音がした。
「あの・・・・せっかく消えたなら、黙って出てってくれませんか?」
「うわ! ビックリした!
姿消したのに、自分見えるのん?」
「そりゃ・・気付きますって・・」
「エスパーやな。 ほな、チェックアウトしてくるな」
・・・チェックインしてたんだ・・。と突っ込もうかと思ったら、カチャリと扉が閉まった。
外から差し込むネオンの明かりが、カラフルに部屋を照らしていた。
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