「ねぇ・・・聴いてる?」
私の問いかけに、アツシは電話の向こうでぶっきらぼうに答えた。
「うん・・・聞いてる」
電話の向こうでパソコンのキーボードの音がする。
アツシは仕事でパソコンを使っているけれど、きっとハンズフリーにしてパソコンのほうに集中している。
「・・・じゃぁ、もう切るね」
「・・ん」
最近、いつもアツシはパソコンばかりだ。
仕事が忙しいのもわかるし、フリーランスで動いているから自分が動いた分だけ給料が出るのもわかるんだけれど、やっぱり寂しい。
寂しいというか、なんか虚しい。
私が「好き」を確認しようと思っても、アツシはパソコンを向いているから、気持ちが重なり合わない。
最近は特に忙しいらしく、私から電話をしないとずっと連絡がなかった。
「はぁ・・・普通の女の子みたいに恋愛したいなぁ・・・」
フリーランスの仕事をしている人を恋人に選んだのは、確かに私だ。
なんか「自由人」っていう感じがしてカッコよかったし、大金持ちになる可能性もある。
でも、こんなに仕事ばっかりやるなんて聞いてない。
3年付き合ったけれど、ここ半年は本当に仕事ばかりだった。
もうすぐバレンタインデーなのに、アツシからは何も言ってこないし、ずっと連絡がなかった。
そこで思い切って「バレンタインデーどうする?」って、電話で聞いてみた。
「・・・ん。 どうしよっか・・・」 カチャカチャカチャ・・・
「私、チョコの交換とかじゃなくって、おいしいものを一緒に食べに行きたいな。チョコの代わりに」
「・・ん・・・それもいいね・・・」 カチャカチャカチャカチャ・・・
「アツシはどこか行きたいとことか無いの?」
「・・・ん・・・ユカは?」 ・・カチャカチャ・・・カチャ・・
「あたしはねぇ・・・イタリアン食べたいな」
「・・ん~、それもいいよね・・・」 カチャ・・
「ねぇ・・聴いてる?」
「うん・・・聞いてる」 ・・カチャカタ・・
はぁ・・・もっと私のことをかまってくれる恋人を探そうかな・・・。
これまで、アツシを支えてこなかったとは思わない。
仕事が忙しいことをずっと気遣ってきたと思っているし、時々だけれど「ありがとうね」と言ってくれる。
でも、このまま何も変わらなかったら、私はこのままおばあちゃんになっちゃうような気がした。
そこへ、着メロが鳴る。
この音は、アツシからだ。
「・・・・はい」 ちょっと暗めの声で出てみた。
「ユカ! ごめんな。 今、パソコンの仕事終わった」
「・・そう、お疲れ様。 じゃぁ、またね」
「ごめん。 最近ずっと話し聞かなくって」
「・・・なんだ、自覚はあったんだ」
「うん、ユカが怒ってるのも知ってる。
でも、このヤマだけは終わらせたかったんだ」
「・・ヤマ?」
「オレ、言わなかったけれど、半年前くらいにでかい仕事の依頼をもらってて、必死にそれをやってた。」
ちょうどアツシが仕事にのめりこみ始めた頃と重なる。
「・・・そっか。 うん、なんとなく気づいてた」
「オレな・・この仕事でもらったお金、全部ユカとの・・・・その・・・・」
「・・・? なに?」
「婚約指輪にあてたいんだ・・・」
「!!? え?」
「だからつい、必死になっててさ。 ようやく納品できたんだ!
バ・・・バレンタインデーだけど、
一緒にイタリアンのおしゃれなレストランにいかねぇか?
その・・・そん時わたすからさ・・・」
「・・・セーフだね・・」
「え?」
「もうちょっとで別れ話を切り出しちゃうとこだったよ・・・
アツシ、ギリでセーフ」
私はいつの間にか泣いていた。
「ユカ・・オレさ、お前がいなけりゃ頑張れなかった。この仕事成功させられなかった。
ずっと支えてくれて、ありがとうな」
私からそっぽをもいていると思っていたアツシが、実は仕事を通して私のことだけを考えてくれていたことが、嬉しくてたまらなかった。
こうやって直接的じゃなく、遅れて届く幸せも、ちょっともどかしいけれど素敵だなって思った。
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