心の事故

「う~・・・ ねみぃなぁ」

 

僕は眠気と戦いながら、運転席でぼやいた。

昨日から降り続いた雪で、道路は凍っており、都心へ向かう道は大渋滞をしている。

イライラを通り越して眠たくなっていた。

 

今日は・・10時集合かぁ、間に合わないな・・・こりゃ。

 

大学のサークルに向かう途中の渋滞。

携帯電話を取り出してメンバーに電話をかける。

『留守番電話センターに接続します・・・・』

「あ、谷口です。今日雪の為遅れます。ごめんなさい。みんなも気をつけてきてね」

と、録音をして、ピっと携帯を切る。

 

さて、あと3時間くらいはかかるかなぁ・・・。

くそぉ~、こんなことならCDもっともってこればよかったなぁ・・・。

 

・・・あ~・・眠い・・・。

 

 

ゴン!!

 

軽い衝撃で目が覚めた。

僕の車はいつの間にかブレーキから足が外れていて、のろのろと前進をしていた。

そして、前の4トントラックにぶつかった。

 

ぶつかった瞬間を覚えていない。

もしかしたら夢かもしれない。

でも・・・確かに音がしたし・・やっぱりぶつかったのかな・・。

でも、ぶつかっていないのに謝りに行くのもな・・・

30秒くらい悩んだ。

心が事故を起こしたように、ストップしてしまっていた。

 

とりあえずギアをバックに入れて、のろのろとトラックとの距離をとった。

見えたナンバーは、「なにわ」ナンバーだった。

大阪から来てるのかぁ・・大変だなぁ・・。

 

と思ったとき、トラックの運転席のドアが開いて、土木作業員的なお兄さんが降りてきた。

 

コンッコンッ

「すんません」

 

ウィーン・・と、窓を開ける。

「今、ぶつからへんだ?」

 

「え・・と、ぶつかったと思います・・・」

 

「ほな、とりあえず降りよか」

「は・・・はい・・」

 

お兄さん口調は穏やかだった。

 

でも、前歯がぼろぼろに抜けていて、何か事情があるのは全面から出ていたし、眉毛も殆どなかった。

 

「なんで降りてけぇへんねん」

「あの・・・すみません」

「自分、人にぶつけといてシカトするんか?」

「いえ・・・そんなことは・・・」

「なんや、大阪からせっかく出てきたのに、ここはこういう土地なんか」

「いえ・・・」

 

僕は最悪の事態を考えていた。

僕が悪いとはいえ、この人はタダで帰してくれそうもない。

これまで事故を起こした事がなく、僕はどうしていいかわからなかった。

 

「ほな、警察よぼか。兄ちゃん、携帯出してや」

「は・・はい・・・。 あの、忘れました」

「嘘ついたらあかんて、さっき携帯で電話してたやん」

 

サークルのメンバーに留守電を入れていたところを、この人は見ていた。

「あ・・・そうでした・・・」

 

「ほな、ちょっと警察屋さんよんでや」

 

僕は110を押す。

「あの・・○○の交差点で車をぶつけてしまったんです。

 来ていただけませんか?

 え? 雪で出払っている?

 いえ・・・怪我はありません。

 はい・・・動きます。

 はい・・・はい・・・・」

 

「どうやってん?」

「あの・・・車が動いて、怪我がないなら、とりあえず当事者同士で何とかしてくれないかと・・・」

「はぁ?」

「後日、出頭をして欲しいと言うことでした」

「お前なぁ、ワシ今から大阪かえんねん。お前大阪来るか?」

「いえ・・・・」

「『いいえ』!? 人に車ぶつけといて大阪こおへんのか?」

「・・・はい・・」

「じゃぁええわ、ワシがこっち来るから日当出してや」

 

僕は保険で日当が出ることを知らなかった。

「あの・・・できません」

 

「・・・自分、おもろいのかナメとんのか、どっちやねん」

「あの・・すみません」

 

「ほな、免許証 出してや」

 

僕はごそごそと免許証を出した。こうなったら観念するしかないと思った。

「なんか紙あったら、そこに全部書き写してや。 しょ~じきに書かなあかんで」

 

こうなったら正直に書くしかない。

この人は家に電話をしたり、しつこくお金を要求してくるかもしれないけれど、書くしかなかった。

 

「はい・・・これです」

と言って、メモを渡す。

「免許証もみしてや」

と言って、免許証を見比べ始めた。

 

「正直に書いたるな。 最初からそうやったらええねん。

 別にこっちも軽く当ったくらいでガタガタいわへんし。

 『きぃつけや』でおわんねんで?」

「・・はい」

 

話が思わぬ方向に行って、ちょっと戸惑った。

「もおええわ、自分正直に書いてくれたし。

 今度からはきぃつけなあかんで」

 

「は・・・はい。すみませんでした」

「もぉええって。ほな」

 

といって、お兄さんは4トントラックに戻っていった。

メモ用紙も免許証もそのまま置いていった。

 

 今思うと、きっとすごく優しい人だったんだろう。

家族の為とか、奥さんの為にトラックを走らせていたのかもしれない。

 

僕があの時迷わずに、素直に「すみません」が言えていたら、

お兄さんも言いたくない言葉を言わずに済んだのかもしれないと、今は思ったりする。

執筆日:2008年1月 8日 15:09 作:癒し人
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