オオカミ少年

ある深い森の広がる山のふもとに、小さな小さな村がありました。

その村では、みんなが野菜を作ったり牛を飼ったりして、平和に暮らしていました。

 

しかしある年、とっても寒い日が続いて、作物が育たなくなり、牛の乳も出なくなってしまいました。

大人たちは口々に「困った・・・困った・・・」とつぶやきました。

 

しかし、困ったのは人間だけではありませんでした。

森の動物たちも食べるものがなく、お腹がペコペコでした。

 

時々人間の住む村に下りてきては、野菜が残っていないか様子を見に来る動物が増えました。

 

 

山の中には、一人の男の子が住んでいました。

この少年が誰なのか、どんな名前なのか村の人は誰も知りませんでしたが、時々村の近くの川に水を汲みに来ているので、みんな顔だけは知っていました。

 

ちっとも村の人と仲良くなろうとしないので、村の人たちはこの少年のことを「一匹狼のウルフくん」と呼ぶことにしていました。

 

この冬は、ウルフくんもお腹をすかしていましたが、ずっと山の中に住んでいて、どこに冬でも実をつける果物があるのか、そしてどこに栄養たっぷりのキノコが生えているのかちゃんと知っていたので、なんとか我慢することが出来ました。

 

村の人は、お腹がすきすぎて死んでしまう人もいるのに、ウルフくんだけが元気なのが気に入りませんでした。

「もしかしたら、夜中にこっそりと俺たちの野菜をぬすんでいるんじゃないだろうな・・・」

そんなことを言い出す人もいました。

空腹が、みんなの心に嫌なものを生み出していたのでした。

 

いよいよ食べるものがなくなり、大人たちがつま先まで困り果てた頃、山の中には狼が集まってきていました。

そうです、狼も食べるものがなくなって、牛や人間のいる場所をみんなで探していたのです。

 

それをいち早く見つけたのは、山の中に住むウルフくんでした。

ウルフくんは狼の群れを見つけてビックリしました。

そして、すぐに村の人を狙っていることに気づきました。

 

村の人とはしゃべったことが無いけれど、ほおっておくわけには行きません。

ウルフくんはすぐに鍋と木の棒を カン! カン!と打ち鳴らして、「狼が来たぞー!!」と村人に知らせに行きました。

狼はとても慎重な動物なので、大きな音を出せば警戒して様子をみることを、ウルフくんは知っていたのです。

 

さて、驚いたのは村の人です。

お腹がすきすぎてずっと眠っていた人たちも、「狼」という言葉をきいて飛び起きました。

「狼だって?」

「あぁ、山の中のウルフくんが知らせに来てくれたんだ」

「大変だ、子どもたちを守らないと!」

みんな疲れ果てていましたが、大切な子どもたちや奥さんを守る為に、身を寄せ合って追い払う体制を整えました。

 

山の麓で、狼たちはじっとそれを見ていました。

いつもと様子が違うことに気づいたのです。

 

その日は待っても待っても狼は来ませんでした。

村の様子がおかしかったので、狼たちは別の日に襲うことにしたのです。

 

村の人たちは肩透かしに不満を言いながらも、ウルフくんに感謝をしました。

「ありがとうね、教えに来てくれて。助かったよ」

ウルフくんは、村の人たちに「ありがとう」と言われて、嬉しくてたまりませんでした。

僕でも役に立てるんだ! これで一人ぼっちじゃなくなるぞ。友達が出来るぞ。

 

「ところでウルフくん。君は山の中の食べ物を沢山知ってるみたいだね。

 お願いなんだが、私たちにも少し分けてくれないか? みんなお腹がすきすぎて死にそうなんだ」

 

ウルフくんはもちろん快く引き受けました。

村の人たちに食べてもらうための果物やキノコを、自分の分まで分けてあげたのです。

村の人たちはウルフくんにとっても感謝をしました。

 

それからウルフくんは、自分の役割が出来ました。

村の人たちに狼が来たことを知らせる係りです。

 

その後も何度も何度も狼たちは村の様子を見に来ていましたが、その度にウルフくんは鍋と木の棒をもってみんなに知らせに行きました。

 

「狼が来たぞー!」

 

村の人は、最初はウルフくんに感謝をしていましたが、だんだんと疲れてきました。

そして、こんなことを言う人が出てきたのです。

 

「おい、ウルフのやつは狼が来るっていうけれど、ちっともこないじゃないか」

「あいつはもしかしたら、俺たちをからかって遊んでるのかもしれないぞ」

「そういえば、ウルフのやつは山にずっと住んでいたわけだから、狼と仲間かもしれないぞ」

「そういうことか! ウルフのやつ、狼を呼んで俺たちをからかっていたのか!」

 

村の人たちは、お腹がすきすぎて、優しい心を失ってしまいました。

 

「おい! ウルフ!

 お前は嘘つきな奴だ!

 狼なんてちっとも来ないじゃないか!」

「お前、俺たちのことをからかって遊んでるんだろう! こいつめ! 山に帰っちまえ!」

 

可愛そうにウルフくんは、村の人たちに木の棒で何度も叩かれてしまいました。

ウルフくんは、村の人たちと友達になれなくなってしまったことを悲しみながら、山に帰って行きました。

それから痛くて痛くて、悲しくて悲しくて、ずっとずっと泣いていました。

 

その間に・・・・

 

狼たちは村に忍び寄って行ったのです。

(今日はうるさく騒ぐ奴がいない)

(残っているのは疲れ果てた村の奴らだけだ)

(いよいよチャンスが回って来たぞ)

(それ、村の人たちを食べてしまえ!)

 

狼は黒い塊のように村に襲い掛かりました。

とてもひどいことに、村の人たちは疲れて逃げられませんでした。

そして、子どもや奥さんを守る為に身を寄せる時間もなく、食べられてしまう人が沢山いました。

 

ウルフくんは、村の様子がおかしいことに気づきました。

村が狼に襲われている!

そう気づいた時、ウルフくんは考える間もなく鍋と木の棒をつかんで、痛い体を引きずりながら村に駆け出しました。

 

「狼だぞー! 狼が来たぞー!」

 

声がかれるまで叫びました。

たとえ村の人が生き残っても、もう友達になれないかもしれません。

それでもウルフくんにとって、村の人に狼が来たことを知らせることは、ウルフくんの役目でした。

 

「狼が来たぞー!」

 

声になら無い声で叫び続けましたが、日がくれる頃には村には誰も残っていませんでした。

ウルフくんは、傷ついた体を引きずって、やはり泣きながら山に帰っていきました。

 

それからウルフくんの姿を見た人は、だれもいませんでした。

執筆日:2007年12月30日 08:29 作:癒し人
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