深夜のファミレスには、変わった人が多い。
どんな仕事をしているのかわからないような人や、恋人では無いけれど恋人のような男女。
何かを一生懸命訴えている老夫婦・・。
愛用のIBMの黒いノートパソコンに企画を入力しながら、
「少し黙ってろよな・・・」と呟く。
土日を返上して練りに練った企画書を、月曜日の朝に課長に突っぱねられた。
「企画に腰が入っていないんだよ、腰が!」
何が腰だよ・・・。誰かの受け売りのくせに、偉そうに言いやがって。
「どこが悪いんでしょうか・・・?」
「説明しなきゃ駄目? 説明しないと何もわからない?」
「あ・・・いえ」
「山本、ここは保育園じゃないんだ。 自分で考えて自分で責任とってこい」
何が保育園だよ・・・マンガみてぇな言い回ししやがって。
企画会議は水曜日の朝。
あと2日しかない・・。
「いや、あと2日もある」と言い聞かせて、深夜にファミレスにきて文章を打ち込んでいても、気分がのらない。
ファミレスで仕事をするのには、2つの理由がある。
一つは、お水を汲んでくれたり、コーヒーのお変わりを持ってきてくれる「秘書」がわりをしてくれること。
そしてもう一つは、「あの人は仕事を頑張っている人なんだ」というまなざしに自分自身をおいて、自尊心を高めながら仕事ができること。
だけど、今日のファミレスは一際うるさい。
遠くで若い女性がぐったりしながらタバコをふかしている長髪の男に怒鳴る声が聞こえる。
「てゆーか、超自分勝手じゃね?」
「あ? うぜーよ」
どんな仕事をしているかわからない人は、必要以上に音を立てながらパソコンのキーを叩いている。
意味不明なことを言う老夫婦は、何かについて仕切りに議論している。
「だって、武田さんがそういったんだもん」
「いやぁ、武田さんはそんなこと言わんよ」
「でも、お隣の山本さんもそう言ってたよ」
いい加減にしてくれ。
まったく集中できないまま、時間がけが流れる。
そのうちに、課長に対する愚痴ばかりが頭をよぎり出した。
大体なんだよ、この企画。
なんだよ、小学生高学年に受け入れられる電波時計って・・。
わけわかんない企画を練らせるなよ。
大体これ、退職した奴の企画の引継ぎだろ? そいつがいなくなったならもう辞めればいいのに。
あー・・・もう嫌だな。
辞めよっかな。
せっかくファミレスに来たのに、「お冷グラス」は空いたままだしよ~・・・。
「てめぇうぜーよ! 表出ろこら!」
男がぐったりしながら女性に怒鳴っている。
出るなら出てくれたほうが助かるのに。
頭が回りまわって360度したところで、トイレにたって気分転換をすることにした。
同じ姿勢でパソコンを打つのは、かなり疲れるものだ。
トイレで小用を済ませながら時計を見ると、深夜3時を回っていた。
「もうファミレスも帰ろうかな・・・」
そう思って席に戻った時、
お水のコップが新しくなっていた。
あ・・・・・そうか・・。
俺が仕事をしていて、なんか必死だから、邪魔しないように気を遣ってくれていたんだな・・。
そう思って見回してみると、きっと家では主婦であろう女性が、おかしな客の間を飛び回って一つ一つに笑顔で応対している。
あの人もこんな時間に頑張ってるんだな・・。
俺は、新しく注がれた水をグいっと人のみして、もう一度IBMに向かった。
小学生高学年に受け入れられる電波時計か・・・・やってやろうじゃないか!
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