「く~まの お~やこは な~かよしこよし♪」
私が必死にペダルをこいでいる自転車の後ろでは、娘の秋穂が幼稚園で覚えてきたばかりらしい歌を何度も歌っている。
「ねぇ、アキちゃん。その続きは?」
「わすれたぁ。
く~まの お~やこは な~かよしこよし♪」
同じフレーズがもう20回目だ。いい加減に疲れてきた。
「アキちゃん、今日のお夕飯はなにがいい?」
「ハンバーグぅ。
く~まの お~やこは な~かよしこよし♪」
じゃぁ、『マルハツスーパー』で買ってから帰ろうね。
いつもと同じ幼稚園の帰り道。
楽しいといえば楽しいし、間違いなく愛しい。
でも、時々襲ってくるこの疲れは何だろうと、考えることがある。
自転車に転んだふりをして、振り落としてみたら・・・。
そんなことを考えてしまう瞬間がある。
そんな自分を、母親失格だと責めたくなるし、同時に「よく頑張っているよ」と、娘に優しく声をかける時のように、自分にやさしく声をかけてあげたくなる。
「誰もが子育て中はストレスを抱えるもんらしいから、たまには休んで息抜きしてくれな」
と、やさしく声をかけてくれるパパは、たまに休んで家族サービスをする暇もなく働いている。
いつになったら休めるんだろう。
どこまで行ったら「幸せだ」ってかみ締められるんだろう。
いや、かみ締めていた時期は確かにあった。
初めて言葉を話した時、今の秋穂のように何度も何度も同じ言葉を繰り返しては笑った。
初めて歩いた時には、転ばないようにおろおろしながら、ペンギンのように秋穂の後を歩いた。
でも今は、秋穂の言葉をうるさいと思ってしまう私がいて、
秋穂を突き落としてみたくなる私がいる。
どうかしているのかな・・・。
「あ! ママ、思い出したよ」
突然秋穂が、後ろから背中にしがみついてきた。
その反動で自転車がよろけそうになる。反射的に秋穂をかばう様に自転車の体勢を立て直す。
「アキちゃん、危ない危ない! 急に押しちゃ駄目でしょ」
「はぁい」
いい加減意しなさい!!
という言葉を、言おうか言うまいか、一瞬冷静に考えた。
母親としての義務と、個人としての八つ当たりの狭間で揺れたその瞬間。
「ママ、続きはね。
『ま~ま、い~つもありがとね』だよ!」
母親としての愛情に、心の針が一気に振れた。
「いえいえ、ママこそ『アキちゃん、い~つもいい子だね』だよ♪」
そういって笑いながら、『マルハツスーパー』の駐輪場に自転車を停める。
いつもと同じ夕日は、いつもよりもほんの少しだけキレイに見えた。
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